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煙になった言葉

ヴェジタブル・パーティ
谷和幸
「煙になった言葉」

「煙のように言葉が消えていった」と現代美術家のRYUSANが言うので、反射的に私はその「煙になった言葉」に興味を持った。彼は二年前に脳内出血で倒れて(本人は救急車で運ばれる途中まではっきりと意識があった)左の側頭葉を失った。姫路市市制120周年の功労者表彰式の会場で偶然出会った時の話である。彼は失語症で言葉が消えることを煙のようにと表現した。それは言葉(記憶)が燃える(熱変換)の結果であり、言葉自体の物質性はいとも簡単に広大な空間に微粒子となってまぎれてしまうものである、と彼は伝えているように思えたのだ。
また一方で、私はパソコン内の文章ファイルが壊れてしまった経験を思い出していた。復元作業から戻ってきたファイルは、ところどころ見たこともない漢字と文節の切れっぱしがあって、それ以外は記号が規則的に並んでいるだけで失望したことがある。たぶんパソコンに起こった現象が失語症の彼に起こった事だろうと思った。実を言えば、その復元ファイルが面白かったのである。
壊れたファイルには私の詩とかエッセイが書かれていた。大まかに括ると、現実にあった事柄に対して私の思いが書かれてあり、その思念こそがファイル(記憶)へと辿る蔓のようなものである。それが破壊されて復元されたときに、当然ながら言葉の容器の中身は消えている。思念の蔓である言葉は見覚えのない漢字や、「・・・と・・・する・・・ならびに・・・よる」。とかに変わっている。およそ8割が余白(意味不明の記号で構成されていた)で出来ていて、しかも延々と続いている。
それを内容の分からないところまで名辞を省略したテクスト言語(提喩)と解釈して、断片の連続からなる飛躍(連結辞省略)として踏み入り、テキスト上の言葉と共に歩き、考えようとしていた。さすがにこれは馬鹿げた行為であると気付いたのだが、その時に私はこの文章を異文化の言語ではないかと思ったのだ。言葉らしきものが延々と並んでいて、意味の分からない法則性を堅持するテキストに、あろうことか思念らしきものを感じたのである。
それが思念とは呼べないことぐらいは私も承知している。しかしそれが言葉(テクスト)の本質的なものではないとも言いきれないのではないだろうか。
ここでテクストについてウォルター・ベン・マイケルズ『シニフィアンのかたち』の序章の空白の頁から引用しながら考えてみたい。
ラルフ・フランクリンが編んだファクシミリ版の『エミリー・ディキンソン原稿全集』についてハウが『痣』のなかで興味深い指摘をしている。ディキンソンのテクストの存在論は、つまり「字のようなもの」であり、文字だけでなく「インクのにじんだ文字」であり、しるしではなく恣意的に余白が作られたことにあると考察している。
また同じ内容のトマス・ジョンソンが編んだ『エミリー・ディキンソン・オリジナル書簡全集』では不均衡なスペースは埋められ、均一化された文字が並んでいる。ハウはそれをディキンソンの言葉(詩)を変化させ、破壊していると考える。
それは写真(絵画)のようなテキストか、編集された文字のテキストかの違いだろうか。
ウォルター・ベン・マイケルズは「テクスト性という概念は、そもそも、テクストとその物質性とのあいだの矛盾のうえに成立している」と言う。・・・ディキンソンのつくったものが詩だとかんがえるならば、ただしい語をただしい順序でならべることが重要と考えられる。彼女が絵をつくったとするならば、ただしいかたちがただしい位置におかれることが重要とかんがえられる。だがおなじ客体が必要ならば、それなら、すべてが重要になる。そのときわれわれは、もはやディキンソンが詩を書いたのか絵を描いたのかも考慮していない。・・・
つまり、テクスト性とは作者ではなく、その関与すら無関係である。
もう一度、壊れたテキストを再読した私の経験に戻ると、自分の思念(詩とかエッセイの)がいとも簡単に死んでしまうという発見である。たとえるならば「煙になった言葉」はテクスト性の狼煙なのだ。
あの時、現代美術家のRYUSANからリハビリのために話し相手になってくれないか、と申し出があった。もちろん私は即座に承諾した。詩と失語症は兄弟みたいな関係だ。

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